香りの散歩道


追風用意(おいかぜようい) 


墨絵・朝野泰昌
「追風用意(おいかぜようい)」という言葉をご存じですか?

追い風、向かい風の「追風」を用意すると書いて「追風用意」。
香りを表す言葉で、日本の古典文学にもたびたび登場します。
 

それは、人とすれ違ったとき、あとから風にのってほのかな香りが漂うように、あらかじめ着物にお香を焚きしめておくこと。奥ゆかしい香りの身だしなみです。
 
吉田兼好(よしだ・けんこう)の『徒然草(つれづれぐさ)』には、こんな一節があります。

「寝殿より御堂(みどう)の廊(ろう)に通(かよ)う女房の追風用意など、人目なき山里ともいわず、心づかいしたり」。

寝殿と仏事が行われるお堂の廊下を、この家に仕える女房が行ったり来たりしている。
彼女たちが、着物に焚きしめたお香の香りを風に漂わせているのは、人けのない山里にもかかわらず、細やかな心づかいである……と、さりげない余韻を残す「追風用意」を、吉田兼好は好ましく思ったのでしょう。
 
身につける香りは、あくまでもほのかに。「追風用意」は、現代にも通じる香りの楽しみ方であり、まわりの人に対するエチケットです。
 
皆さんも想像してみてください。街や建物の中で、素敵だなと思う誰かとすれ違ったとき、あとから風にのせて、心地いい香りを届けることができたら幸せだと思いませんか。
 
年末にかけて、多くの人が慌ただしい気分になる今こそ、「追風用意」の心づかいを実践してみてはいかがでしょう。



*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。



*このコーナーは毎週水曜日に日本海新聞で掲載しています



香りの散歩道TOPへ
 /  TOPへ  / 歳時記へ